D2Cブランドとは?食品・飲料・化粧品業界での成功事例やメリット・デメリットも紹介
近年はSNSを活用した宣伝・集客により、自社で販売サイトを立ち上げてブランディングに成功しているD2Cブランドが多くあります。成功すれば独自のコンセプトを世の中に発信しつつ、高い利益率で商品が販売できるため、D2Cブランドの立ち上げを考えている方もいるのではないでしょうか。
本記事では、D2Cブランドの概要や市場規模の動向、メリット・デメリットから成功するためのポイント、成功事例までわかりやすく紹介します。D2Cブランドの立ち上げにあたり、詳しい内容を理解しておきたい方はぜひ参考にしてください。
D2Cブランドとは?
D2Cとは「Direct to Consumer」の略で、企業が企画・生産した商品をECサイトなどで消費者に直接販売するビジネスモデルをさします。このビジネスモデルを採用するブランドが「D2Cブランド」です。
従来のビジネスモデルでは、多くの場合、企業が商品を販売するまでに卸業者や小売業者などを介します。また、インターネット上の取引でもプラットフォーム等を利用するケースがほとんどでした。
D2Cブランドは、中間業者を挟まずに消費者へ直接商品を販売する点が、従来のブランドとは異なります。
B2BやB2Cとの違い
D2Cと似た言葉に、「B2B」「B2C」「C2C」などが挙げられます。それぞれの違いは下記のとおりです。
ビジネスシーンで使われる機会も多い用語なので、混同しないようにD2Cとの違いを理解しておきましょう。
D2Cブランドが注目を集めている背景
D2Cブランドが注目される背景には、ECの拡大が要因として挙げられます。ECとは、「eコマース」もしくは「電子商取引」と呼ばれる、インターネット上で行われる物やサービスの取り引きのことです。インターネット通販が代表的な例です。
D2Cは販売の手段で、ECはD2Cを行うための販売経路を意味します。ECが注目を集めている背景には、下記の要因が挙げられます。
- スマートフォンの普及
- SNSの普及
- コロナ禍の影響によるライフスタイルの変化
- ECサイト構築の簡略化
- 物流インフラの整備
ECの市場規模の拡大が客観的に理解できるデータも公表されています。市場規模は以降で紹介するので、参考にしてください。
D2CブランドやECの市場規模と動向
ECの市場規模が拡大するにつれ、D2Cの市場規模も拡大すると予想されています。以下では、世界や日本のEC市場を紹介するので参考にしてください。
世界の動向
世界では、ECサイトを利用した取引が増えています。2022年時点の世界のBtoC-EC市場規模は、5.44兆USドル、インターネット通販の市場規模が商取引全体に占める割合を示す指標である「EC化率」は19.3%です。2026年には7.62兆USドル、EC化率23.3%まで上昇すると予測されています※1。
市場規模全体に占める国別の割合を一部紹介すると下記のとおりです※。
上表より、中国とアメリカだけで68.8%ものシェア率を占めていることがわかります。
また、世界の市場シェア率に加え、国境を超えて海外のECサイトで商品を購入する「越境EC」の市場規模が経済産業省の資料で公表されています※。
2022年、日本の消費者が中国やアメリカのECサイトから購入した額の合計は3,954億円です。対して、日本のECサイトから購入された額は、中国が2兆2,569億円、アメリカが2兆2,111億円にものぼります※。
中国では、25〜44歳の年齢層のうち、30%の方が越境ECの利用者です。18〜24歳、45〜54歳の年齢層でも15%の人が海外のECサイトで商品購入しています。
世界の越境EC市場は、2021年の市場規模7,850億USドルから、2030年には7兆9,380億USドルまでに拡大すると予想されています。
なお、越境ECビジネスを成功させるためには、現地の市場調査や法規制の理解、適切な物流や決済のパートナーシップの構築が必要不可欠です。慎重な計画と対策を講じましょう。
EC市場の成長は中国やアメリカだけではありません。インドでも、2021年までに年率25〜30%の成長率でEC市場が伸びています。既に800を超えるD2Cブランドが存在していることから、今後さらなるEC市場規模拡大とD2Cブランドの登場が予想できます。
日本の動向
日本のBtoC-EC市場規模は、2022年時点で13兆9,997億円、EC化率は9.13%です。2013年の市場規模3兆9,931億円、EC化率3.85%から、年を経るごとに拡大しています。経済産業省で公表されている、2022年の業種別市場規模とEC化率は下記のとおりです※。
上記のとおり、前年にあたる2021年に比べ、EC市場規模は全体で5.37%増加しています。なお、公表されているデータによると、BtoC-EC市場規模の13兆9,997億円のうち、55.98%にあたる7兆8,375億円がスマホ経由の購入です。
2022年のスマホ普及率は90.1%、インターネット利用者の割合は13〜59歳の各年齢階層で9割を超え、SNSの利用状況も全体では80%とのデータもあるため、今後もEC市場規模やD2C市場規模は拡大が予想できます。
また、D2C市場だけに限定した公的な統計データはありませんが、D2Cを支援する上場企業の独自調査では、2025年にD2Cの市場規模が3兆円を超えると予想されています。
【業界別】D2Cブランドの成功事例
D2Cブランドの成功事例を下記の2つに分けて紹介します。
- 食品・飲料業界のD2C成功事例
- 化粧品業界のD2C成功事例
それぞれ簡潔に紹介するので、参考にしてください。
食品・飲料業界のD2C成功事例
一つ目は、株式会社にしき食品が創発するブランド「NISHIKIYA KITCHEN」です。
にしき食品は宮城県岩沼市下にある創業60年の老舗食品レトルトメーカーで、創業当時は佃煮や豆腐などの惣菜を主に製造していました。しかし、時代の変化に合わせてレトルト食品製造を始め、現在は企業のプライベートブランド食品製造と、自社ブランド「NISHIKIYA KITCHEN」を展開しています。
コロナ禍での巣ごもり需要も後押しとなって全体の売り上げが伸長し、生産量増加に対応するために新たな工場を新設するなど、大きく飛躍しています。
二つ目は、完全栄養食を手がけるD2Cブランド「ベースフード株式会社」です。主食で必要な栄養素をバランスよく摂取できないかを試行錯誤して開発された商品で、完全栄養食ブームの火付け役ともいわれています。サブスクリプション形式の販売で業績を伸ばし、現在は台湾やシンガポールにもECサイトをオープンしています。
三つ目は、アルコール飲料のD2Cブランド「オリオンビール株式会社」です。沖縄に本拠地を置くこの会社では、コロナ禍による旅行自粛の影響で、ECサイト経由での購入が約300%増加し、現在では沖縄のグッズを取り扱うなどしてラインナップを拡充しています。
四つ目は、「キリンビール株式会社」です。「工場のタンクから注がれる作りたてビールを自宅で楽しめる」をコンセプトに、ビールサーバーとビールが自宅に届くサービスをサブスクリプション形式で提供しています。2022年時点で会員数10万人を超えており、飲料業界の成功事例と呼べるD2Cブランドです。
五つ目は、「クルミっ子」などのスイーツで有名な神奈川県の「株式会社鎌倉紅谷」です。元々は業務販売も行っていましたが、現在は一般消費者向けに自社ブランドのスイーツを展開しています。
このように、地方の企業から大手企業まで、食品・飲料業界では様々な企業がD2Cブランドとして直接消費者へ商品を販売しています。
化粧品業界のD2C成功事例
一つ目は、「DINETTE株式会社」です。レディースコスメのD2Cブランド「 PHOEBE BEAUTY UP」では、コロナ禍により家で過ごす時間が増えても「充実したおうち時間を過ごして欲しい」とのコンセプトで、まつげ美容液やフェイスマスクを販売しています。
SNSで寄せられたユーザーの声を反映させたアイテムを販売するなど、ユーザーとのコミュニケーションを重視し、若い層から支持を集めています。
二つ目は、「株式会社Sparty」です。シャンプー、トリートメントのD2Cブランド「MEDULLA(メデュラ)」では、ユーザーの髪質や悩みにあわせてパーソナライズされたヘアケア商品を提案します。使用後のフィードバックをもとに次回以降の商品を届けるなど、ユーザーとの関係性を重視し、顧客から支持を得ています。
D2Cブランドのメリット・特徴
D2Cブランドのメリットや特徴は下記のとおりです。
- 中間コストを削減できる
- 顧客のニーズの把握・データ分析がしやすい
- 独自のマーケティングやブランディングを展開しやすい
それぞれ簡潔に紹介します。
中間コストを削減できる
D2Cは、従来のビジネスモデルとは違い、卸業者や小売業者など中間業者を挟まず、自社のECサイトを介して商品を販売します。
中間業者へのマージンが不要なため、中間コストの削減による利益率の向上が期待できます。
顧客のニーズの把握・データ分析がしやすい
D2Cでは中間業者を介さないため、企業と一般消費者が直接やり取りする機会が増えます。消費者からの要望や口コミを取り入れやすく、ニーズを適切に把握することで、商品改良に活かせる点はD2Cのメリットです。満足度の高い商品の提供により、コアなファンやリピーターの獲得も期待できます。
また、自社で構築したECサイトで商品を販売するため、ECサイトに訪問した消費者の属性データや行動データも詳しく分析できます。売れやすい商品や訪問するユーザーの年齢層は、ニーズの把握にも役立つかもしれません。
例えば、商品をカートに入れたまま決済していないユーザーの割合が多い場合は「決済の手順が複雑かもしれない」など、システム上の問題点を発見しやすくなります。
独自のマーケティングやブランディングを展開しやすい
D2Cでは自社のECサイトやSNSを活用して販売を行うため、独自のマーケティング戦略やブランディングを展開しやすい点もメリットです。
従来のB2Cでは、大型プラットフォームのECサイトで販売する場合、の商品と同ECサイト内で比べられる他、サイト設計に自由度がなく、制限を受けます。大型プラットフォームは集客力があるものの、自社の強みや理念、ストーリーなどを正確に消費者へ伝えづらい点はデメリットといえます。
しかし、D2Cでは自社の製品にあわせて使用するSNSを使える他、サイトのデザインや設計を自由に行えるため、独自のコンセプトや世界観を表現しやすい点が強みです。
D2Cブランドのデメリット・弱点
D2Cブランドを運営する際の主なデメリットや弱点は以下のとおりです。
- ECサイト構築や在庫管理などに手間とコストがかかる
- 長期的な目線での事業戦略が必要
- マーケティングやブランド構築の難易度が高い
その他、前述のとおりD2C市場は拡大しつつあるため、競争が激しいことを理解したうえで、差別化を図る必要があります。また、消費者に直接提供した商品の返品やクレームへの対応など、リスク管理も重要です。
ECサイト構築や在庫管理などに手間とコストがかかる
D2Cは、特定のプラットフォームに頼らず自社のECサイトで商品を販売するため自由度が高い反面、ECサイトの構築や決済システムの導入が必要です。配送業者との契約やSNSの運用など、自社で行う手間・コストがかかる点に注意しましょう。
ECサイトは、規模や機能、タイプによってかかる費用が異なり、小規模なサイトであれば約10〜100万円、中規模なサイトだと約100〜500万円、大規模なサイトだと約数千万円する場合もあります。
また、サイトを立ち上げてから直接消費者にアプローチするには、広告費やプロモーション費用などもかかるでしょう。
さらに、直接商品を配送する場合は、自社で在庫管理を徹底し、物流や配送の効率化を図る必要もあります。在庫管理については以下の記事で詳しく紹介しているため、気になる方はあわせてご覧ください。
このように、D2Cブランドの場合は自社で管理しなければならないことも多いため、初期費用や維持コストなど、立ち上げにかかる手間やコストを見積もって計画を立てておくことが大切です。
長期的な目線での事業戦略が必要
D2Cブランドは、長期目線での事業戦略が必要です。
D2Cブランドは自社で知名度を高めていく必要があり、計画的にマーケティングやブランディング、長期目線での改善は欠かせません。初期費用や維持コストを含め、収益が安定化するまでのキャッシュフローも考えておく必要があります。
マーケティングやブランド構築の難易度が高い
ユーザーをECサイトに呼び込み、サイト上で商品の魅力を伝えて購入してもらうためには、自社でマーケティングやブランド構築を行う必要があります。これには専門知識や経験が必要で、特に小規模なブランドにとってはリソースの確保が難しい場合があります。
なお、マーケティングを行ってもすぐに成果が出ないこともあり、安定的な売上を確保するまでに時間がかかる点もデメリットといえます。
D2Cブランド立ち上げまでの流れ
D2Cブランド立ち上げまでの大まかな流れは、下記のとおりです。
- 市場調査、顧客ニーズを調査する
- ブランドコンセプトを決める
- 商品を企画する
- 事業・資金計画を立てる
- 製造する工場を決める
- 商品の制作する
- テストローンチ・本格的なローンチをする
- 販売のための仕組み(ECサイトやSNSなど)を構築する
- 集客・宣伝する
- 販売する
D2Cブランドには世界観やストーリーが大切ですが、立ち上げる前にはニーズの調査も重要です。ニーズがなければ商品は売れにくいため、アンケートやインタビュー、SNSなどを使い、ユーザーの声をコンセプトに反映することをおすすめします。
また、商品開発の段階では、まず試作品の開発や小ロットの生産からはじめてみると良いでしょう。試作品を顧客に提供し、フィードバックを受けつつ改良すると、無駄な手戻りを減らしつつ、ニーズに沿った商品に近づけるかもしれません。
D2Cブランドで成功するためのポイント
D2Cブランドで成功するためのポイントとして、下記の点を押さえておきましょう。
- D2C向きの商品を販売する
- コンセプトやストーリーを表現して顧客に共有する
- SNSを効果的に運用する
それぞれ簡潔に紹介します。
D2C向きの商品を販売する
D2Cには、飲料水や化粧品など、定期的に購入してもらえる消耗品が向いています。一度きりで利用が終了する商品だと、収益の安定化が難しいため注意しましょう。
継続的に顧客にアプローチできる商品の場合、長期的な目線で関係を構築できる他、コンセプトの共有によって、リピーターやファンの獲得につなげやすくなります。
コンセプトやストーリーを表現して顧客に共有する
D2Cブランドでは、コンセプトやストーリーの共有やイメージの確立が大切です。商品やサイトのデザイン、使用素材のこだわり、創業の経緯を顧客に知ってもらうなど、様々な方法があります。
コンセプトが広まれば、ブランドイメージが浸透していき、商品を購入したことがないユーザーにも魅力が伝わりやすくなります。
競合との差別化ができていない場合、どのお店で買っても同じと思われてしまい、大手ECサイトで販売されている安価な商品に流れてしまうため注意が必要です。
SNSを効果的に運用する
前述のとおり、スマホの普及率やSNSの利用率は高いため、D2Cブランドが自社独自のブランディングで知名度を高めるためには、SNSを積極的に取り入れましょう。
SNSを効果的に活用する方法の一例は、下記のとおりです。
- インフルエンサーに商品のレビューをしてもらう
- SNSのアンケート結果を商品に反映する
- 投稿に反応した顧客とコミュニケーションをとる
- コンセプトが伝わる写真・動画を投稿する
例えば、SNS上でとったアンケート結果を商品に反映すると、ユーザーやロイヤルカスタマーも開発に参加しているような親近感が湧き、ファンになってくれる可能性もあるかもしれません。
なお、ロイヤルカスタマーとは、特定のブランドや企業に対して高いロイヤルティ(忠誠心)を持っている顧客をさします。購買頻度が高いだけでなく、ポジティブな口コミや企業(ブランド)のイベント・キャンペーンへの参加、SNSでのやりとりを楽しんでくれる傾向があり、企業(ブランド)と長期的な良好な関係を築きやすいです。
その他、自社商品のターゲット層が利用するSNSや、自社商品に適したSNSを利用するなど、目的に沿ったSNSを選ぶことも大切です。
飲料・酒類向けD2Cブランドに関する情報収集なら「ドリンクジャパン」への参加がおすすめ
D2Cブランドの立ち上げを成功させるには、まず情報収集が重要です。商品の開発・製造には他社の協力が必要になるでしょう。
そこで、独自のこだわりやコンセプトが明確な商品の開発をしたいなら、展示会に足を運び、製造装置などを見学・体験することをおすすめします。
飲料・酒類向けD2Cブランド立ち上げを考えているなら、ぜひドリンクジャパンにご来場ください。ドリンクジャパンとは、飲料・酒類の研究・製造にかかわる製品が一堂に出展する国際商談展です。製造・包装機械や研究機器から、新商品開発に欠かせない原料・素材などが出展します。
来場者と出展者の間で活発な相談・商談が行われる日本唯一の飲料・液状食品に特化した展示会なので、D2Cの開発や製造に役立つ情報が得られるかもしれません。
来場登録を行えば来場は無料です。また、ドリンクジャパンは出展者側としての参加企業様も募集しています。来場側・出展側どちらにもメリットがあるので、情報収集や商談、つながりを作る場としてご活用いただけます。
D2Cブランド立ち上げの際に商品製造を委託したい人や、新商品開発のアイデアに困っている方もぜひご参加ください。
D2Cブランドの市場規模は今後も拡大が予想される
D2Cブランドとは、企業が企画・生産した商品を消費者に直接販売するD2Cのビジネスモデルを採用したブランドです。中間業者を挟まないため、中間コストの削減になる他、従来のビジネスモデルより近い距離で顧客との関係を構築できるなどのメリットがあります。
一方、コンセプトやストーリーの共有、ECサイトやSNSなど販路・集客経路の構築を含め、立ち上げにあたってやるべきことが多い点には注意しましょう。
飲料業界でD2Cブランドを立ち上げたい方や、コンセプトを踏まえた商品作りやアイデアに困っている方は、情報収集のためにもぜひドリンクジャパンにご来場ください。
▶監修:宮崎 政喜(みやざき まさき)
エムズファクトリー合同会社 代表 / 料理人兼フードコンサルタント
出身は岐阜県、10代続く農家のせがれとして生まれ、現在東京在住。プロの料理人であり食品加工のスペシャリスト。また中小企業への経営指導、食の専門家講師も務めるフードコンサルタントでもある。飲食店舗・加工施設の開業支援は200店舗以上。料理人としてはイタリア トスカーナ州2星店『ristorante DA CAINO』出身。 昨今、市町村や各機関からの依頼にて道の駅やアンテナショップも数多く手掛ける。今まで開発してきた食品は1000品目を越え、商品企画、レシピ開発、製造指導、販路開拓まで支援を日々実施している。
▼この記事をSNSでシェアする