クラフトビール業界を牽引するヤッホーブルーイング、その唯一無二の個性に迫る

12月7日から幕張メッセで開催される「第7回ドリンクジャパン」にてご講演いただく、(株)ヤッホーブルーイング社長室 ディレクター 清水 俊介さんに、講演に先がけてお話をうかがいました。

セミナー
酒類フォーラム1 ~クラフトビール×差別化戦略~

よなよなエール流 ファンとつくる差別化戦略
【日時】2022年12月07日(水)10:00~11:00
【登壇者】(株)ヤッホーブルーイング社長室 ディレクター清水 俊介

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異業種から、導かれるように飛び込んだヤッホーブルーイング

事務局:最初に、清水さんがヤッホーブルーイングさんにご入社されたきっかけを教えていただけますか。

清水様:前職ではコンサルタントの仕事をしていたのですが、メーカーで働くことには漠然と興味を持っていました。特に転職活動もしていなかったのですが、たまたまSNS広告でヤッホーブルーイングの求人を見かけ、ふと説明会に行ってみたところ、ただ単にビールを売るというだけではなく「日本に新しいビール文化をつくる」という壮大なミッションを掲げていて、「この人たち本気だ!面白そうだ!」と思ったのが最初のきっかけでした。

自分も一緒に文化をつくっていくと想像したら非常にワクワクして、ヤッホーブルーイングに飛び込んだのが2014年でした。

事務局:偶然見つけた求人広告でビビッとくるものがあったというのは、何か運命的なものを感じますね。

清水様:コンサル業界的では同業他社への転職が多いので、私のようにメーカーへ、それに当時は、ベンチャーやスタートアップが今ほどは盛んではなかったので、大企業から小さい会社への転職は、珍しいパターンだったかもしれません。

事務局:ビール業界を選んだのは、やはりビールがお好きだったからですか?

清水様:お酒全般が好きですね。好きなものを仕事にすると良くないと言われますが、ビールはずっと好きでいられるだろうなという、ある意味確信がありました(笑)。

事務局:ビール業界は奥が深いと思うので、いろいろな知識も吸収することができて楽しそうですね。

課題があるところにこそ、おもしろい仕事がある。

事務局:ご入社後は、どのような業務に携われてきたんですか。

清水様:私は社内でもイレギュラーなキャリアパスなのですが、幅広く色々な仕事を担当してきました。最初は前職のコンサルに近い、バックオフィスの業務変革でしたが、そのあとマーケティングに移り、その後もプロモーション企画や、調査・分析、提携企業との連携業務、飲食店営業、社長秘書など、毎年、その年の会社の重点課題を一気に解決するという役回りで、多種多様な仕事に関わり、現在は社長室の責任者を担っています。

直近では、「日本中にクラフトビール文化をどうやって広めていくか」という課題のもと、地方拠点を設けてそこから文化発信をしていく取り組みを担当しています。北海道日本ハムファイターズの新球場内にブリュワリーをつくる仕事や、大阪の泉佐野市とタッグを組んで、ふるさと納税を活用したクラウドファウンディングでブリュワリーをつくる仕事など、ワクワクするような案件が増えてきました。

事務局:北海道の話は、以前おっしゃっていましたよね。

清水様:23年の3月に開業するのですが、世界初のロケーション、バックスクリーン内にフィールドが一望できるブリュワリーをつくっています。日本に新しいビール文化が根付いていくには、我々だけではなく、地域や、パートナー企業や、そこに訪れてくれるお客さんたち、みんなにとって意義のある活動を広げていくことが重要だと思っています。それによってクラフトビール文化づくりが、次の新しいステップに進めればいいなという想いを持っています。

事務局:本当にいろいろなことをされてきたんですね。しかも最初は、社内のバックオフィスのご担当だったとは意外でした。その後マーケティングの部署へは、志願されていかれたんですか?

清水様:興味はありましたが、マーケティングだけに固執していたわけではありません。クラフトビール文化を日本で広めていくにあたって、自分が一番必要とされ、一番貢献できる役割を担いたいという気持ちでいるので、毎年のように担当業務が変わることを楽しんでいます。

事務局:そうなんですね。

清水様:
困っているところにこそ面白い仕事があると思うので、自分の能力を生かしつつ、いろんな課題を解決しながら、それで会社が伸び、文化づくりに繋がったら楽しいじゃないですか。

クラフトビール業界シェアNo.1の実績の裏に、独自の企業文化あり

事務局:続いて、ヤッホーブルーイング社が、どういった事業を展開されているのかを改めてお聴きしてもよろしいですか。

清水様:ヤッホーブルーイングは、「よなよなエール」というフラッグシップビールをつくるクラフトビールメーカーです。クラフトビールメーカーは国内に5~600社ほどあるといわれているのですが、ありがたいことにクラフトビール内シェアは一番です。特徴の一つに、ビールの味わいやパッケージデザインなどを含めたブランドづくりに強みがある会社です。「よなよなエール」、「水曜日のネコ」、「インドの青鬼」のようなネーミングからも個性的なブランドづくりを感じていただけるかと思います。また、熱量の高いファンの方々がたくさんいらっしゃるのも特徴です。また、私たちの組織文化もかなりユニークで、みんな楽しそうに働いています。

ビール業界自体がここ四半世紀ほど右肩下がりを続ける中、おかげさまで直近19期連続の増収を続けており、ビール業界ではめずらしい成長カーブを描いています。

事務局:その成長の秘訣を教えていただけますか。

清水様:これをやったら絶対うまくいくという万能な秘訣はないと思っていますが、私たちは目指す方向を定め、全員で同じ方向を向くことを大事にしています。たとえば「よなよなエール」も「今までになかった味わいのエールビールを毎晩飲めるようになるといいな」ということでできたブランドです。

事務局:よなよなエールのネーミングは、そういう意味だったんですね。

清水様:創業当時、日本のビール市場全体のほとんどをピルスナーという1種類が占める中、「もっと多様な味わいのビールを楽しめるような文化をつくりたい」というところからはじまりました。目指すものがあるということは私たちの原点であり一つのポイントなのかなと思います。
クラフトビールには、限定品や地域性といった部分が注目される側面もあるのですが、私たちは毎晩飲んでいただける定番のビールをつくっていくことに重点を置いています。これも「新しいビール文化をつくりたい」ということにつながっているのです。そして自分たちのビールやミッションについて自分たちが一番熱量を持って語れること、それをファンの方々と共につくるということを大事にしています。

事務局:「共につくる」ということなんですね。

清水様:加えて、文化づくりを目指す上では、当然ながら事業を続けていくことが非常に大事です。ビジネスの世界は競争も激しいので、生き残り続けるために独自のポジションを築いていく必要があります。それには模倣されないことが大事です。私達は迷ったときには常に難しい選択肢を選ぶことも心がけています。こうして独自進化を続けた結果が、今の成長につながってきているのかなとも思います。

製品そのものよりも、その先にある何かへの共感がファンを増やしていく

事務局:お話を聞いている中で、ずっと「ファン」という言葉が出てきていたんですが、御社が大事にされているファンづくりの信念を教えていただけますか。

清水様:言葉の話になってしまうのですが、ファンを「つくる」というマインドとは異なるのかなと思っています。ファンとの関係性はつくってできるものではなく「共につくる」「共に楽しむ」といったマインドで接してきた結果、生まれてくるのだと思います。製品に対する支持だけでなく、その先にある活動だったり、雰囲気や企業文化だったり、製品を超えたところに共感いただけていることが大事なのだと思っています。

事務局:なるほど。

清水様:私たちの根っこにある組織文化には、「究極の顧客志向」や「仕事を楽しむ」「自ら考え行動する」といったキーワードがあります。盲目的にお客様は神様です、という話ではなく、自分たちが楽しんで、自分たちで考えアクションまで行うので、目の前のお客様が本当に満足してくれると思っています。スタッフもお客様も一緒に、仲間として同じ方向を向いて、共につくっていくということを常日頃から考えています。

事務局:パッケージデザインからも、そのような社風が感じられます。御社では、社員一人一人にニックネームがついていると聞いたんですが。

清水様:はい、全員についてます。私は「みーしー」と呼ばれています。

事務局:
これも、ファンを獲得する要因につながっているのかなと思うんですが。

清水様:そうですね、ファンとの心理的な距離を近づけるという効果もありますね。私たちは、お客様ともお互いにニックネームで呼び合うような関係性を築いていますので。ただ、一番の目的は良い成果を生み出すこと、そのためにフラットな議論ができる環境づくりです。社内で議論をするとき、一般的に役職者が偉いとか、若いと意見が通りづらいとなりがちですが、私たちは新入社員であっても社長でもニックネームで呼び合うことで遠慮や忖度なく意見を出し合えています。もちろんニックネーム以外にも色々取り組みはあるのですが。

事務局:確かに、ニックネームで呼び合う仲になると柔軟に意見が言えそうです。

急成長中の日本のクラフトビール業界。その現状と海外との違いとは?

事務局:最後に、今のクラフトビール業界について教えていただけますか。

清水様:クラフトビールはかつて地ビールといわれていました。97年に規制緩和があり、“地ビールブーム”というのが起きました。でも3年くらいでブームは終わり、長い冬の時代に入ってしまい多くの企業が倒産したり事業を縮小したりする中で、生き残ったブリュワリーが品質向上の努力を続けていくという流れがありました。その後も何度か小さいブームがおきながら、近年では徐々に市場に認知され始めたという感じですね。

とはいえ日本のビール業界のシェアは、大手5社(アサヒビール、キリンビール、サッポロビール、サントリービール、オリオンビール)が99%を占めているので、残りの1%がクラフトビールのシェアという構図です。

事務局:わずか1%なんですね。

清水様:小さいシェアではありますが、縮小が続くビール市場の中で伸びている市場ということで、近年注目されています。地ビールブームのときには2~300社ほどだった事業者数も、今では5~600社に伸びています。その多くは飲食店に併設されている小規模なブルーパブという業態を中心に参画が多いように感じています。

事務局:ドイツで4年に1度開催される「ドリンクテック」という展示会があるんですが、そこでもクラフトビールに新規参入する事業者が急速に増えていると聞いています。日本と海外の温度差については、どのように感じていらっしゃいますか。

清水様:海外でもクラフトビール市場が成長しが流行っているというのは当然聞いています。特にアメリカなどで市場は大きく伸びていて、華やかなホップを多く使ったクラフトビールが盛んにつくられています。また、ブリュワリーの数も拡大していて、日本よりもだいぶ先をいっているという感じですね。

事務局:そうなんですね。

清水様:アメリカで流行のビアスタイルが、翌年に日本でも流行するという動きはあるのですが、市場規模という面では二桁以上の差があります。要因は色々ありますが、大きなポイントとしては免許や税制などに違いがあります。例えばアメリカでは、ホームブリューといって自分で飲むビールを自分の家でつくることができるのですが、日本だとそれは違法になってしまうんですね。

事務局:免許が必要になるということですね。

清水様:はい。ホームブリューを緩和することで、自分でつくるからこそビールが身近になったり、メーカーがつくる製品の美味しさに気づいてもらえ、ビール消費を促されるという効果もあり、プラスの側面もあるのですが、日本ではまだ道のりは遠そうです。

事務局:なるほど。

清水様:あとお酒は日常的に飲むものですが、日本はビールの酒税が高いのでそこが消費のハードルになっているのかなと思います。

事務局:海外の方が自由度が高い分いろんなことにチャレンジできるんですね。ただ、日本でも今注目されている業界ということに変わりはないと思うので、改めてこれからのクラフトビール業界が楽しみではありますね。

文化は業界全体でつくるもの。セミナー「よなよなエール流 ファンとつくる差別化戦略」で伝えたいこと

最後になりますが、12月7日?9日に幕張メッセで開催される「第7回ドリンクジャパン」では「よなよなエール流 ファンとつくる差別化戦略」と題して講演をしていただきますが、今回ご登壇を決めていただいた理由をお聞きしてもよろしいですか。

清水様:広告予算もないような小さな会社が、自分たちなりに工夫をしながらビールの品質を高め、ファンを増やし、少しずつ成長してきました。クラフトビールが多様で個性的であるように、私たちは、クラフトビールをつくる人たちも、みんな多様で個性的な仲間たちだと思っています。そして文化は1社でつくるものではなく、みんなでつくるものだとも思っているので、私たちが今までやってきた取り組みをお伝えすることが、少しでも同業のみなさまの参考になったら嬉しいですし、日本にクラフトビール文化が広がる一助になればと思い、登壇をお引き受けした次第です。

事務局:クラフトビール業界の方々は、本当に距離が近いですよね。今後もっともっと魅力的なクラフトビールが世に出てくるのかと思うとワクワクします。
最後にぜひ、当日セミナーを聴講される方に向けて、メッセージをお願いできますか。

清水様:昨今クラフトビールは、少しずつ手に取っていただきやすくなってきてはいますが、まだまだブームの途中かもしれません。また、これがブームで終わってしまうのか、定着して文化になっていくのかといった分岐点でもあります。だからこそ、もっともっと多くのみなさまに、クラフトビールの美味しさや楽しさを知っていただき、その上で共にクラフトビール文化を盛り上げていければと思っています。ぜひ当日はいろいろなセッションを楽しんでいただき、帰りにクラフトビールを飲みにいったり、買って飲んでいただけたら嬉しいです。

事務局:私も今晩、さっそく買いに行こうかと思っています(笑)
このたびは、貴重なお話をありがとうございました。

第7回ドリンクジャパン
【会期】
2022年12月7日(水)~9日(金)
【会場】幕張メッセ
【主催】RX Japan株式会社

セミナー
酒類フォーラム1 ~クラフトビール×差別化戦略~

よなよなエール流 ファンとつくる差別化戦略
【日時】2022年12月07日(水)10:00~11:00
【登壇者】(株)ヤッホーブルーイング社長室 ディレクター清水 俊介

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