生ビールの「生」とは?原材料・造り方から醸造・販売に必要な資格まで解説

生ビールはお酒の代表格であり、広く愛される存在です。飲み会の席では生ビールで乾杯するケースも多く、様々な飲食店で提供されています。

しかし、生ビールとは一体何をさすのか、定義がわからない方もいるでしょう。

本記事では生ビールの定義や原材料、製造方法、醸造・販売に必要な資格を詳しく解説します。生ビールの製造・販売を考える企業の方は、理解を深めるためにもぜひ参考にしてください。



生ビールとは熱処理していないビール

生ビールの製造工程は以下のとおりです。

  • 製麦
  • 仕込み
  • 発酵
  • 貯酒
  • 容器詰め

詳しくは後述の「生ビールの造り方」をご覧ください。

ビールの製造過程において、容器詰めする際は、通常品質保持のためにろ過や熱処理(パストリゼーション)を行います。この過程で、熱処理をしないビール(非熱処理ビール)を「生ビール」といいます。

「ビールの表示に関する公正競争規約」でも、生ビールと表示できるのは熱処理しないビールのみとされています。

つまり、瓶や缶などの容器を問わず、熱処理しないビールは全て生ビールです。

かつては熱処理したビールが一般的でしたが、現在はろ過のみで品質保持が可能となりました。かつてのビールを知る方にとっては、熱処理ビールの味が懐かしく感じることもあるかもしれません。

また、生ビールと似た言葉に「ドラフトビール」があります。日本では「ビールの表示に関する公正競争規約」で両者を同一に定義し、どちらも熱処理しないビールをさします。

しかし、海外では「ドラフト(draft)」が持つ「くみ出す」の意味を重視し、熱処理は必ずしも名称の条件に含まれません。樽から注いだビールであれば熱処理の有無にかかわらず「ドラフトビール」と呼ぶ国もあるなど、国ごとに定義は様々です。


ビールの「熱処理(パストリゼーション)」とは?

熱処理と聞くと、高温で煮立たせるイメージがあるかもしれません。しかし、ビールの熱処理は60〜70度で20〜30分間加熱する「低温殺菌法」を使います。

熱処理でビールに含まれるバクテリアや雑菌が死滅すると同時に酵母も死滅し、ビールの発酵が止まって品質を保持できます。



大手メーカーのビールは生ビールが主流

現在は熱処理をしなくてもろ過で酵母を取り除けるため、大手メーカーのビールは生ビールがほとんどです。熱処理の影響を受けない生ビールは、ビール本来の味わいを楽しめます。

▼代表的な生ビールの例

  • キリン一番しぼり生ビール(キリン)
  • サッポロ生ビール黒ラベル(サッポロ)
  • アサヒスーパードライ(アサヒ)
  • ザ・プレミアム・モルツ(サントリー)

生ビールが主流になった背景には、メーカーの努力や技術の進歩が存在します。

かつては出荷前にバクテリアや雑菌、酵母を死滅させて品質保持するために熱処理が必要でした。しかし、現在は醸造場所の衛生管理が徹底され、ろ過のみで酵母を取り除けるため、熱処理は必須ではありません。

上記のような背景から、1970年代後半には「瓶詰め生ビール」ブームが発生し、生ビールを好む消費者が増えてきました。


生ビール以外のビールは?

現在は生ビールが主流ですが、生ビールではない熱処理をしたビールの存在が気になる方もいるかもしれません。

現在もいくつかの熱処理ビールが販売されています。

▼熱処理ビールの例

  • キリンクラシックラガー(キリン)
  • サッポロラガービール(サッポロ)
  • アサヒスタウト(アサヒ)

生ビールは新鮮なビールの味わいを楽しめますが、熱処理ビールは昔ながらのしっかりした重い飲み口が特徴です。

ノンアルコールビールやビールを含むお酒の種類・特徴についてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

▶関連記事:ノンアルコールビールは妊娠中や運転中に飲んでも良い?定義や製造方法を解説

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生ビールの原材料

ビールの原材料は、主に麦芽やホップ、水、酵母です。麦(主に大麦)やその他法令で定める材料を発酵させたものも、規定量までは加えられます。

麦芽は、発芽させた麦のことです。麦はデンプンを多く含んでいますが、酵母はそのデンプンをそのままアルコールに変えることはできません。

まず、「糖化」という工程によってデンプンを糖分に変える必要があります。その糖化のために必要な酵素を、麦自身の中に作らせるため、麦を発芽させます。

ホップは、ビールの香りや味わい、泡立ちに影響し、殺菌力も持つ原材料です。

水は、水質によって発酵のしやすさや麦芽の成分の溶けやすさが変わります。日本は主に、ミネラル分の少ない軟水であるため、淡い色のビールを醸造しやすい環境にあります。

酵母は、糖からアルコールと炭酸ガス、香りなどを作り出す微生物です。ビールに含まれるアルコール分と独特な風味・味わいは微生物の働きで作られます。



生ビールの造り方

ここからは、ビールの醸造や販売を考えている方に向けて、ビールの造り方に関する基礎知識や必要な設備・免許などをより詳しく紹介します。

生ビールの醸造工程は、大きく分けて「製麦」「仕込み」「発酵」「貯蔵」「容器詰め」です。

各工程はについて詳しく解説します。


1.製麦

製麦では大麦を発芽させて麦芽に加工し、以降の工程で扱いやすい状態にします。

その次に、大麦の不純物を取り除き、水に浸して(浸麦)発芽させます。発芽から生まれる酵素は、大麦のでんぷんを糖に変えるために必要な存在です。

発芽し、もやし状になった大麦は乾燥(焙燥)させ、不要な根の部分を取り除きます。焙燥の時間や温度もビールの味に影響を与える要素です。

そして、次の仕込み工程でデンプンを抽出しやすくするため、麦芽は粉砕(トリミング)します。


2.仕込み

仕込みでは、粉砕した麦芽と副原料、水を混ぜあわせて、発酵できる状態に加工します。

麦芽に含まれる酵素がデンプンを糖に変え、糖化液ができます。糖化液へ加工する際は、酵素が働ける環境を作る必要があり、温度管理が重要です。

糖化液はろ過してホップを加え、煮沸して熱麦汁を作ります。ビールの味や香りは、ホップを加えるタイミングによって変化します。


3.発酵

仕込みの工程でできた熱麦汁を冷却してから酵母を加え、タンクで発酵させます。発酵のための温度や期間はビールの種類によって異なります。

  • ラガービール(下面発酵):5度前後で6〜10日ほど
  • エールビール(上面発効):20℃前後で3~6日ほど

発酵の工程では、酵母が麦汁に含まれる糖分をアルコールと炭酸ガス(ビールの泡)に分解します。

発酵してアルコールや炭酸ガスを含んだ液は「若ビール」と呼ばれ、ビールに近い状態です。しかし、若ビールはまだ味や香りが不十分な状態であり、ビールは完成していません。


4.貯酒(熟成)

発酵が終わった若ビールは0℃くらいで2週間~1か月ほど貯蔵、ビールの味や香りを熟成させます。

この貯酒の工程を経て、若ビールの時は不十分だった味・香りが整ってビールが完成し、出荷できる状態になります。


5.容器詰め

熟成し、完成したビールはろ過で不要な成分を取り除き、瓶や缶、樽などの容器に詰めて出荷されます。

熱処理せずに容器詰め・出荷するビールが生ビールです。生ビールではない熱処理ビールは、容器詰めに際して熱処理が行われます。

原材料を加工して出荷できる状態になるまで、だいたい2~3ヶ月かかります。



生ビールの醸造に必要な設備

ビールの醸造や販売に必要なおもな設備は以下のとおりです。

  • 麦芽を粉砕する粉砕機
  • 仕込みに使う設備
  • 発酵・醸造に使うタンク
  • 容器詰めする充填機
  • 出荷時の樽
  • 液体を移す際に使うホース類
  • 設備をメンテナンスする機材や道具

規模にあわせて以上の設備をそろえるため、必要な予算を検討しましょう。



生ビールの醸造や販売に必要な免許・届出

ビールの醸造・販売には以下の免許や届出が必要です。

それぞれについて、以下で詳しく解説します。


酒類の製造免許

ビールを醸造する場合、醸造をはじめる前に酒類の製造免許を税務署に申請して酒類の製造免許を受けましょう。醸造所ごとに所轄する税務署から免許を受けなければなりません。

免許を受ける際のおもな審査項目は以下のとおりです。

  • 経営状態
  • 技術や設備の状況
  • 製造免許を受けてから1年間の製造見込み数量が最低基準を満たすか

1年間の製造見込み数量は、ビールの場合60キロリットルです。ビールではなく発泡酒の製造免許であれば、製造見込み数量が6キロリットルに下がります。最初からビールにこだわらず、比較的小規模ではじめられる発泡酒からスタートするのもひとつの方法です。

また、製造免許の拒否要件に該当する場合、経営状態や製造見込みの基準を満たしても免許を受けられません。例えば、過去に以下の許可取り消しや処分を受け、所定の期間が経過していない場合は拒否要件に該当します。

過去に酒税法の免許またはアルコール事業法の許可を取り消されてから3年以内

  • 免許の申請前から2年以内に国税または地方税の滞納処分を受けている
  • 20歳未満への酒類提供で刑罰を受けて執行が終わってから3年以内
  • 禁固刑以上の刑罰を受けて執行が終わってから3年以内

製造免許の申請方法は、書類の持参・郵送の他、e-Taxでの提出も可能です。


酒類の販売免許

ビールを醸造所以外で販売する場合は、酒類販売業免許が必要です。販売所ごとに必要なため、販売所が増えるたびに手続きしましょう。

酒類販売業免許の種類は、酒類小売業免許と酒類卸売業免許です。

醸造したビールを誰に対して販売するかで、必要な免許は異なります。

酒類小売業免許は販売方法により細かく分かれており、「一般酒類小売業免許」「通信販売酒類小売業免許」「特殊酒類小売業免許」が存在します。店頭や取引先へ販売するだけなら一般酒類小売業免許ですが、通信販売する場合は通信販売酒類小売業免許が必要です。

販売業免許の申請方法は、書類の持参・郵送の他、e-Taxでの提出もできます。


飲食店の営業許可や開店に必要な届出

ビールの醸造だけでなく、醸造したビールを提供する飲食店も営業したい場合は、飲食店の営業や開店に必要な許可を取りましょう。

営業許可は最寄りの保健所で申請し、検査を受けます。事前に保健所へ相談し、店舗が許可に必要な要件を満たすか確認しましょう。そして、店舗が完成する10日前くらいに保健所へ書類を提出します。

その他、飲食店のオープンにあたって必要な届出も済ませましょう。調理のために火を使う場合は「火を使用する設備などの設置届」、建物全体の収容人数が30人以上の場合は「防火管理者選任届」などが必要です。


深夜における酒類提供飲食店営業開始届出書

夜0時以降も飲食店を営業してビールを提供する場合は「深夜における酒類提供飲食店営業営業開始届出書」が必要です。醸造したビールの提供を前提とする飲食店で、営業時間が深夜に及ぶなら必ず届け出ましょう。

「深夜における酒類提供飲食店営業営業開始届出書」は、警察署へ書類を提出して届け出ます。



ビールの開発・醸造に必要な情報収集は「ドリンクジャパン」へ

自社でビールの開発・醸造を検討する場合は、まず必要な情報を集めましょう。インターネットや専門書から得られる情報だけでなく、ビールの原材料や製造に必要な機器を扱うメーカーが発信する情報も参考になります。展示会へ足を運べば、ビールの製造に関するメーカーと直接話す機会を持てるでしょう。

例えば、飲料や液状食品の開発・製造に関する展示会「ドリンクジャパン」には、醸造設備や充填機を扱うメーカー以外に、商品開発に必要な原料・素材を扱うメーカーも出展します。メーカーに直接相談や商談ができ、ビールの開発・製造に必要な情報収集が可能です。

また、ドリンクジャパンでは、クラフトビール向けの原料や醸造設備が出展する「クラフトビールゾーン」もあります。飲料に関するセミナーも開催され、ビールの開発・醸造を考えるなら足を運びましょう。

展示会には、事前に登録すれば無料で入場できます。

さらに、飲料や液状食品に関する設備、原料などを扱う企業は、ドリンクジャパンへ出展すればリード獲得につながるメリットがあります。出展スペースには限りがあるため、早めの申し込みがおすすめです。

ドリンクジャパンの詳細は以下からご確認ください。

■ドリンクジャパン



▶監修:ストロングおじさん

缶チューハイ研究家
年間1,000本の缶チューハイを飲む缶チューハイ研究家。得意のパワポを駆使し、新製品のレビューから企業の製品開発・プロモーション企画の支援まで手がける。缶チューハイのみでなく、ビール類・スピリッツを中心に酒類全般に精通。



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