クラフトビール製造の初期投資はいくら?費用の目安やコストを抑えるポイントを解説
クラフトビールの人気が高まるなか、自社でブルワリーを立ち上げたい、クラフトビール事業で起業したいと考える経営者の方は多いのではないでしょうか。
しかし、クラフトビール製造をはじめるには、まとまった初期投資が必要になります。事業を成功させるためには、設備費用や申請手続きなどの初期投資にかかる費用の内訳を、正しく理解しておくことが重要です。
本記事では、クラフトビール製造にかかる初期投資の目安やその内訳を解説します。また、初期費用を抑えるポイントや、初期投資で失敗しないためのポイントも紹介するので、クラフトビールの製造・販売に興味がある経営者の方はぜひ参考にしてください。
クラフトビールの市場規模
クラフトビールの市場規模は拡大し続けており、今後の展望にも注目が集まっています。
株式会社グローバルインフォメーションの「日本のクラフトビール市場レポート」によると、市場規模は2024年時点で約80億ドルに達しており、2025〜2033年の年間平均成長率(CAGR)は12.6%に拡大する見込みです。さらに、2033年には市場規模が234億ドルまで拡大すると予測されています。
日本では、1994年の酒税法改正をきっかけに地ビール事業者が増加しました。その後、「地ビール」から「クラフトビール」へと名称・位置付けが進化し、より広く知られるようになりました。
また、2017年の酒税法改革により、小規模事業者でも多様な展開が可能となりました。地域の特産品を活用したクラフトビールなども登場し、今後も成長が見込まれています。
クラフトビール製造に必要な初期投資の内訳
クラフトビール製造に必要な初期投資費用の目安は、1,000~6,000万円程度といわれています。
開業形態や設備の内容によって初期投資費用の目安は異なり、小規模なマイクロブルワリーであれば1,000万円台からはじめることが可能です。一方で、飲食スペースを併設するブルーパブでは、内装や厨房工事を含めて4,500〜6,000万円程度になる場合もあります。
主な内訳は、以下のとおりです。
- 設備費
- 店舗内装・厨房工事費
- 酒類製造免許取得費・各種申請費
- 物件取得費・保証金
それぞれ詳しく解説します。
設備費
クラフトビール製造に必要な設備は、初期投資のなかでも大きな割合を占めます。費用は地域や設備の規模によって異なりますが、800〜2,000万円程度が目安です。導入する設備としては、以下が挙げられます。
- マッシュタン(糖化槽)
- ケトル(煮沸釜)
- 醸造タンク
- ブライトビールタンク
- 冷却装置
- 冷蔵庫
- 樽洗浄機
- モルト粉砕機
- 温度・圧力制御システム
- ホップ投入装置・ホップバック
- ろ過装置(フィルター)
- 炭酸ガス注入・調整装置
- 瓶詰め・缶詰め機械
- ラベラー(ラベル貼り機)
- 洗浄・消毒設備(CIPシステム)
- 排水処理設備
- 圧縮空気設備
- ラボ用分析機器(比重計、pHメーター) など
導入するタンクの数や容量によってもコストは大きく変動するため、自社の生産規模に適した設備選びが重要です。
店舗内装・厨房工事費
店舗の内装、厨房の工事にかかる費用は、店舗の規模によって大きく変わりますが、300〜1,000万円程度になります。特にブルーパブや店舗併設型の場合、内装工事費も大きな投資項目のひとつです。
店舗内装・厨房工事費としては、以下が挙げられます。
- 店舗設計やデザイン
- 内装仕上げ(床・壁・照明)
- 厨房設備
- 空調
- 給排水
- ダクト など
また、ブルワリーでは、消防法・建築基準法の要件に応じた設計が必要です。店舗の内装を考える際には、なるべく早い段階で電源・排水の計画を想定しておくと、スムーズに進められるでしょう。
酒類製造免許取得費・各種申請費
酒類製造免許の取得には、法的な要件を満たすための申請書類作成・図面作成・相談対応費が必要です。自力で対応することも可能ですが、申請には「図面・設備リスト・製造工程」などの正確な資料が必要なため、専門家のサポートを受けることも選択肢のひとつです。
酒類製造免許の取得には、最低製造能力(ビール:年間60kL以上)が求められます。登録免許税15万円がかかる他、図面・書類作成を行政書士・設計士などに外注する場合はさらに費用が発生します。
税務署との事前相談や申請書作成、設備設置、審査を経て、許可が下りるまでには2〜6ヶ月程度を見込んでおく必要があります。余裕を持って申請を行いましょう。
飲食提供を行うブルーパブを開業する場合は、酒類製造免許に加えて、保健所からの「飲食店営業許可」が必要です。申請手数料は地域によって異なりますが、16,000〜20,000円程度が目安です。また、食品衛生責任者講習の受講(費用は約10,000円)も求められます。
物件取得費・保証金
物件の取得費用は、立地や規模によって大きく変動します。例えば賃貸契約をする場合は、数ヶ月分の前家賃に加えて、仲介手数料や保証金、礼金などが必要です。
購入する場合も契約費用や登記関連費用などがかかり、場合によっては100万円前後の初期費用が発生します。都心部の物件では、さらに高額になるケースも少なくありません。
特に、製造・販売だけでなく飲食提供も行う場合には、立地は集客力に直結する重要な要素となります。交通アクセスや周辺環境なども含めて、物件や土地の選定は慎重に行うことが大切です。
クラフトビール製造にかかる初期投資のコストを抑えるためのポイント
前述のとおり、クラフトビール製造をはじめる際には、設備や物件取得など高額な初期投資が必要となります。しかし、工夫次第ではコストを抑え、限られた予算のなかでも効率的に開業準備を進めることが可能です。
クラフトビール製造にかかる初期投資を抑えるための具体的なポイントは、以下のとおりです。
- 場所選びを工夫する
- 中古厨房設備やDIYを活用する
- 補助金を活用する
それぞれ詳しく解説します。
場所選びを工夫する
クラフトビール製造をはじめるにあたって、ブルワリーをどこに構えるかは初期投資に大きく影響します。特に都市部では、物件価格や賃料が高くなりやすく、想定以上の出費につながることがあります。
一方、地方や郊外であれば、土地や物件の取得費を抑えやすく、固定費の軽減にもつながります。また、すでに水道やガスなどの設備が整っている「居抜き物件」を活用すれば、内装や工事にかかるコストを大幅に削減することが可能です。
初期費用を少しでも抑えたいと考えるなら、立地の選定はコスト面と集客面のバランスを意識して慎重に検討しましょう。
中古厨房設備やDIYを活用する
初期投資にかかる費用のなかで、大きな負担となるのが厨房や内装にかかる設備費です。これらを全て新品でそろえると高額になりやすいですが、中古の厨房設備をうまく活用することで、数百万円単位でコストを削減できる可能性があります。
特に、業務用の冷蔵庫や調理台、シンク、給排水設備などは、中古市場でも比較的良好な状態のものが出回っており、初期費用を抑えたい事業者にとって有効な選択肢のひとつです。
また、内装工事も全てを業者任せにするのではなく、自分でできる範囲はDIYで対応することでコストダウンが可能です。例えば、壁の塗装や棚の設置、装飾の一部なら専門知識がなくても取り組めるため、開業準備の一環として楽しみながら進めることもできます。
必要以上にお金をかけずに工夫をすることで、限られた予算のなかでも満足度の高い空間づくりが実現できるでしょう。
補助金を活用する
クラフトビールの醸造所を新設する際には、公的な補助金を活用することで、設備導入費や店舗開設にかかる費用負担を軽減することができます。
補助金は一定の条件を満たすことで受給でき、自己資金だけではまかないきれない初期費用を補填することが可能です。代表的な補助金制度としては、以下が挙げられます。
これらの補助金は、公募期間や申請条件が定められており、申請には事業計画書や収支予測など、一定の書類作成が求められます。
補助金の情報は、経済産業省や中小企業庁、自治体の公式サイトで確認できる他、商工会議所や中小企業支援センターなどでも相談が可能です。まずは、ご自身の事業内容や地域に該当する補助金があるかを確認してください。
クラフトビール製造の初期投資を失敗しないためのポイント
クラフトビール製造における初期投資は、大きな決断を伴います。そのため、設備や資金だけでなく、事業計画や戦略面でも失敗を防ぐための十分な準備と工夫が必要です。
事業を成功するために押さえておきたいポイントは、以下のとおりです。
- 市場調査を行う
- 集客の見込みや回収年数を計算する
- 独自の価値を持つビールを製造する
それぞれ詳しく解説します。
市場調査を行う
クラフトビールの製造・販売をはじめる前に、まず行うべきは「市場調査」です。自社の製品がどの層に受け入れられるのかを見極めるためにも、地域性やターゲット層の嗜好をしっかりと把握する必要があります。
例えば、「若年層向けにフルーティーなテイストが好まれる」「地元食材を使ったビールが話題になりやすい」など、地域のニーズを分析することで、製品づくりや販路展開にも活かせます。
また、認知拡大や集客の面ではSNSの活用も効果的です。InstagramやX(旧Twitter)など、視覚的に訴求力のあるSNSを通じて、ブランドの世界観や製品の魅力を発信しましょう。
集客の見込みや回収年数を計算する
クラフトビール事業を成功させるためには、開業後の収益シミュレーションも欠かせません。ブルワリーを設置したい地域でどれくらいの集客が見込めるか、周囲に競合が存在するかなどをリサーチしましょう。
イベントや観光との連携が可能かなど、立地に応じた戦略を立てておくことが重要です。地元の自治体や観光協会と連携すれば、広報面での支援や地場メディアへの露出機会も得やすくなります。
また、初期投資にかかった金額をどのくらいの期間で回収できるかも必ず試算しておきましょう。投資回収率(ROI)や損益分岐点の分析を行い、現実的な目標設定をすることで、資金繰りの見通しが立てやすくなります。
独自の価値を持つビールを製造する
クラフトビールは、飲食店であれば一杯あたり500円~800円、製造販売であれば1本あたり300~500円と、一般的なビールより高めの価格帯で販売されることが多い商品です。
そのため、「どんな世界観を提供するか」「どんな顧客にどんな価値を届けるか」を戦略的視点で明確にし、ファンを生むブランド設計が求められます。
市場調査や収益シミュレーションも重要ですが、最終的に消費者の心を動かし、リピーターを生むのは一貫したブランドコンセプトの構築です。
味わいの個性や製造背景だけでなく、デザイン、ネーミング、SNSでの発信、顧客体験に至るまで、全ての接点でブランドの世界観を一貫させることが重要であり、初期投資を成功に導く最大の鍵となります。
クラフトビール製造に関する情報収集なら「ドリンクジャパン」へ
クラフトビール製造に興味があり、設備導入や製品開発に役立つ最新情報を収集したいなら、ぜひ「ドリンクジャパン」にご来場ください。「ドリンクジャパン」は、飲料・液状食品の開発・製造に特化した展示会です。
展示会内には「クラフトビールゾーン」が特設されており、クラフトビール製造に必要な原料・醸造設備・分析機器・パッケージング技術などが一堂に出展しています。
来場者は、製造工程ごとに製品・サービスを比較検討ができる他、その場で出展企業の技術者に質問・相談することも可能です。また、製品開発や市場動向を学べるセミナーも開催されています。展示会は事前登録を行えば無料で入場できます。
さらに、クラフトビール関連の製品・サービスを取り扱っている企業であれば、出展者としての参加も可能です。来場者の多くが製品導入を検討している業界関係者や決裁者なため、自社の製品・サービスを直接訴求でき、商談やリード獲得につながります。認知拡大や新規顧客開拓を目指す方はぜひ出展もご検討ください。
クラフトビール製造にかかる初期投資を理解して、賢く導入を進めよう
クラフトビール製造をはじめるには、設備費や物件費、許認可取得費など、1,000~6,000万円程度の初期投資が必要です。初期費用の負担を軽減するには、中古設備や補助金の活用など、計画的な準備が欠かせません。
クラフトビールに関する最新情報や技術に興味があるなら、「ドリンクジャパン」へのご参加がおすすめです。クラフトビール製造に役立つ技術や製品を比較検討できるだけでなく、他社との商談の場としても活用できます。来場側、出展側の双方にメリットがあるため、ぜひこの機会にご参加ください。
▶監修:宮崎 政喜(みやざき まさき)
エムズファクトリー合同会社 代表 / 料理人兼フードコンサルタント
出身は岐阜県、10代続く農家のせがれとして生まれ、現在東京在住。プロの料理人であり食品加工のスペシャリスト。また中小企業への経営指導、食の専門家講師も務めるフードコンサルタントでもある。飲食店舗・加工施設の開業支援は200店舗以上。料理人としてはイタリアトスカーナ州2星店『ristorante DA CAINO』出身。昨今、市町村や各機関からの依頼にて道の駅やアンテナショップも数多く手掛ける。今まで開発してきた食品は1000品目を越え、商品企画、レシピ開発、製造指導、販路開拓まで支援を日々実施している。
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